「また何か間違えたらどうしよう」
新人看護師が手術室で感じる不安の多くは、「ミスをしてしまうこと」への恐れではないでしょうか。とくに麻酔導入や手術開始前後の時間帯は緊張感が高く、細かい行動一つにも神経を使う場面です。
しかし実際には、麻酔科医がすべてのミスに対して厳しいわけではありません。なかには「よくあることだよ」と笑って済まされるようなミスもあります。では、どんなミスが許容され、どんなミスが許されないのでしょうか?
この記事では、麻酔科医の視点から「許されるミスの条件」と「手術室で信頼を得る看護師の姿勢」について解説します。
Contents
笑って済まされるミスには“前提条件”がある
麻酔科医が「大丈夫、気にしなくていいよ」と言う場面には、いくつかの前提条件があります。これらを満たしている限り、それは“重大ではない”と判断されることが多いです。
- 患者に実害がないこと
- 可逆的に修正できること
- ミスに自ら気づき、報告・対応できること
この3つをすべて満たしていれば、麻酔科医も冷静に対応する傾向があります。
- ケース①:気管チューブのサイズを間違えた
予定していた7.0mmではなく、7.5mmを準備していた。導入前に気づけばすぐ交換可能で、患者リスクはありません。 - ケース②:麻酔器の回路が外れていた
導入前のチェックで発見できれば、再接続するだけで済みます。 - ケース③:物品の配置が普段と違った
サクションチューブの置き場所などが異なる場合。気づいて修正すれば問題なしです。
なぜ麻酔科医は軽微なミスに寛容なのか?
手術室は毎日多くの変数が絡む「不確実性の高い現場」です。麻酔器の異常、物品の補充忘れ、患者状態の変化など、予期せぬ出来事が日常茶飯事です。
そのため麻酔科医は「ミスは起こり得るもの」と理解しています。大切なのは、ミスをしたかどうかよりも、気づいて報告し、どう対処するかです。
看護師に求められているのは、「絶対にミスをしないこと」ではなく、「ミス後の行動」なのです。
笑って済ませられない“重大なミス”とは?
もちろん、どんなミスでも許されるわけではありません。以下のようなケースは患者への重大な影響があり、厳しく指摘されます。
- ケース①:薬剤の指示を確認せず、誤投与した
薬剤ミスは重大なインシデントであり、患者への直接的なリスクになります。 - ケース②:アラーム音を勝手に停止し、そのまま放置した
モニタリング情報の遮断につながり、非常に危険な行為です。
ミスの有無より”対応力”が信頼を生む
新人看護師ほど「ミスをしないこと」に意識が向きがちですが、麻酔科医が信頼を寄せるのは「ミス後の対応ができる人」です。
私自身も若手の頃、サクションの準備不足に気づかず麻酔導入してしまい、上級医に助けてもらったことがあります。慌てていた私に、その医師が言ったのは、
「人がいるから大丈夫。変だと思ったらすぐ言ってくれれば、こっちが助けるよ」
早期の報告と冷静な対応。それこそが、信頼構築のカギです。
小さなミスは学びのきっかけ
笑って済まされたミスは、経験値の種です。
たとえばチューブのサイズミスは「なぜそのサイズが必要か」を調べるきっかけになり、接続ミスを経験すれば「次回は自分でチェックしよう」と考えるようになります。
人は体験から学んだことを忘れにくいものです。マニュアルでは得られない学びが、現場にはあります。
多くの麻酔科医や外科医も、似た失敗を経験しています。だからこそ、次世代にその教訓を伝えることができるのです。
最後に:完璧さよりも【誠実さ】を大切に
手術室では誰もがミスをする可能性があります。大切なのは、そのミスをどう扱うかです。
麻酔科医が信頼するのは、完璧な人ではなく「正直に聞ける人」「すぐ相談できる人」です。
後戻り可能で、患者に影響のないミスであれば、それは“笑って済まされるミス”です。
そうした経験を前向きに活かし、日々の業務を通じて成長していきましょう。
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