「この程度の空気なら大丈夫」
…そんな油断が患者の命を脅かすことも。
手術室では日常的に扱う静脈ルート管理。看護師の皆さんは、日々慎重にルートの接続や薬剤投与を行っているかと思いますが、ふとした瞬間に「少しくらい空気が入っても大丈夫では」と感じたことはないでしょうか。
本記事では、麻酔科医の立場から、空気塞栓という重篤な合併症について、現場で役立つ知識とともにお伝えします。
空気塞栓とは?
空気塞栓(venous air embolism)とは、血管内に空気が入り込み、心臓や肺などの重要臓器の血流を遮断する状態です。
主な症状は以下の通りです:
- 呼吸困難・胸痛
- 意識障害
- EtCO₂の低下や心停止(麻酔中)
空気塞栓が起きやすい状況
- ルートの開放状態(特に陰圧時)
- 中心静脈カテーテルの抜去
- 三方活栓や点滴接続時の不注意
- 体位変換(座位・頭高位では特に注意)
致死量はどれくらい?
50mL以上の空気が急速に静脈内に入ると致死的になることがあります。
100mL以上で心停止のリスクも。少量でも注意が必要です。
また、卵円孔開存症(PFO)がある場合、わずかな空気でも動脈側に漏れて脳梗塞などを起こす可能性があるため、決して油断できません。
PFOとは?なぜ危険?
PFO(卵円孔開存症)は、成人の25~30%にみられる心房中隔の隠れた通路です。
通常、静脈から入った空気は肺でフィルターされますが、PFOがあると肺を通らず動脈側に空気が流れ、脳や心臓に重大な障害を引き起こす危険があります。
予防するために看護師ができること
空気塞栓は、日常の注意でほとんど防ぐことが可能です。
- 点滴ルートやシリンジのエア抜きを確実に行う
- 使っていない三方活栓やラインは必ずクランプ
- 体位変換時は静脈ラインの状態を再確認
- 新人・学生への指導時にも「空気ゼロ」の原則を強調
まとめ:静脈ルート操作に妥協は禁物
「空気混入ゼロ」は患者の命を守る基礎スキルです。
静脈ルートは「安全に見えて、意外と危険をはらむ」部分でもあります。だからこそ、ルーチン業務こそ丁寧に行いましょう。
本記事が、皆さんの日常業務の安全向上に少しでも役立てば幸いです。
参考文献
- Gottlieb VJ, et al. Venous Air Embolism. Anesthesiology. 1965;26(5):651-652.
- Medscape. Venous Air Embolism: Background, Pathophysiology, Etiology.
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